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基盤システム

クラウドの「どこか」を訪ねて──データセンター見学記

クラウドの「どこか」を訪ねて──データセンター見学記

クラウド、という言葉には重さがない。データが雲のどこかに浮かんでいるような、軽やかな響きがある。だが実際にその「どこか」を訪ねると、印象はまるで違う。重い扉、低くこもる空調の音、足の裏に伝わる微かな振動。データセンターは、雲というよりも工場に近い。ごおっという送風の音が、建物全体に満ちている。

案内に従って中へ進むと、まず驚くのはサーバーの少なさ──正確には、サーバー以外の設備の多さだ。計算する機械が並ぶ部屋にたどり着くまでに、変電設備があり、無停電電源があり、巨大な空調機が並ぶ。職員の説明によれば、施設の面積も予算も、その多くは「計算するため」ではなく「計算を止めないため」に費やされているという。

二重、三重の備え

止めないための工夫は、徹底して冗長化に向かう。電力は複数の系統から引き込み、外部からの供給が途切れても、無停電電源装置が一瞬の隙間を埋め、その間に自家発電が立ち上がる。冷却も一台が壊れて全体が温まらないよう、複数で分担する。通信回線も別経路で二重に確保する。一つが倒れても、別のものが受け止める。この「片方が死んでも生き残る」構えは、ソフトウェアの冗長化とまったく同じ思想だ。違うのは、ここでは配線も配管も、手で触れられる物体だという点である。

職員がこともなげに言った一言が印象に残った。「ここでいちばん怖いのは、停電でも火災でもなく、冷却が止まることです」。計算機は動き続ける限り熱を出す。冷やせなくなれば、わずかな時間で危険な温度に達する。だから空調は、ある意味で計算機そのものより手厚く守られていた。

PUEという物差し

こうした施設の効率を語るとき、よく登場するのがPUE(Power Usage Effectiveness)という指標だ。施設全体の消費電力を、計算機本体が使う電力で割った値で、一に近いほど無駄が少ない。空調や照明にどれだけ余分な電力を費やしているかを映す物差しといってよい。総務省の情報通信白書でも、データセンターの電力消費とその効率は、通信インフラを論じるうえで避けて通れない論点として扱われている。

ただし、効率の追求には別の顔もある。冷却を切り詰めれば電力は減るが、余裕も減る。猛暑や設備故障が重なったとき、削った余裕の薄さがそのまま危うさになる。効率と余裕は、しばしば逆を向く。どこまで切り詰め、どこに余白を残すか──その判断は、数値だけでは決まらない。

軽い言葉と、重い現場

見学を終えて外に出ると、初夏の風がやけに軽く感じられた。私たちが日々「クラウドに保存する」「サーバーレスで動かす」と口にするとき、その軽い言葉の足元には、こうした重い設備と、それを見守る人々がいる。本サイトで論じてきた気づかれない自動化の極北が、ここにはあった。利用者がその存在を一度も意識しないことこそ、この施設の成功の証なのだ。

もっとも、見えないことは、忘れてよいことではない。電力をどこから引き、熱をどこへ逃がし、誰がその当番を担うのか。クラウドの軽やかさは、こうした物理の重さを誰かが引き受けているからこそ成り立っている。雲の比喩は便利だが、その比喩に慣れすぎると、足元の現場が視界から消える。データの「どこか」は、確かに地面の上にあった。

参考資料

  1. 総務省「情報通信白書」(データセンターの電力消費と効率に関する記述)— soumu.go.jp
  2. The Green Grid によるPUE(Power Usage Effectiveness)の定義 — thegreengrid.org

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